過去20年間、景気サイクルの同期化と協調的な金融政策を特徴とする環境に置かれてきた投資の世界は、現在、地域ごとに異なる展開へと分岐しつつあります。2026年3月3日に日本で開催されたルーミス・セイレス社の創立100周年記念セミナーでは、グローバル債券パネルが開催され、足元の変化が債券投資家に対してどのような形で課題とチャンスをもたらしているのか、掘り下げた議論が行われました。
足並みをそろえて動く世界の終焉
「過去20年を振り返ると、景気サイクルには2つの明確な特徴があったと考えられます」と、ルーミス・セイレスの最高投資責任者であるデイビッド・ウォルドマンは述べました。「1つ目の特徴は、ボラティリティが抑制された環境下で景気拡大局面が長期化し、その結果、景気後退に陥る頻度が低下したことです。また、2つ目の特徴として、グローバル市場の相関が強まったことが挙げられます」。
そのような時代が終焉を迎えたことは明らかです。30年以上の市場経験を有するルーミス・セイレスのグローバル債券チームの共同責任者であるデイビッド・ローリーは、単刀直入に語ります。「各国の景気サイクルが同期化し、多くの政策当局がほぼ同じタイミングで概ね足並みをそろえて行動するという感覚が、定着するようになりました。しかしながら、現在はそのような環境ではありません。1つの市場が全体を支配する構造は存在せず、代わりに、相関性が強まり得る領域が入れ替わる形で出現しています」。
例えば政策金利に注目すると、日本やオーストラリアなどの国が利上げの方向にあるのに対して、ユーロ圏や中国などでは据え置きの方向性、米国では利下げの方向性がうかがえると、ローリーは指摘しています。また、ニュージーランドとオーストラリアのように地理的に近接する市場であっても、政策のスタンスが対照的なケースもあります。
「景気サイクルの段階が異なることで勝者と敗者の二極化が生じ、デュレーション(金利)などのリスク・ファクターを対象とする投資機会が広がります。さらに、クレジットや通貨などのリスク・ファクターについても、投資機会が拡大する可能性があります」。
ボラティリティ上昇局面では柔軟性の強化が求められる
ルーミス・セイレスに30年在籍し、フル・ディスクレション・チームの責任者を務めるマット・イーガンも、債券市場が大きく変わったという点で同じ見解を示しています。前任の運用責任者であるダン・ファスは在任期間中、世界は安定的で金利は着実に低下に向かうと指摘したものでした。そのような環境では、債券の運用会社は市場が変化するタイミングを見極める必要がなく、デュレーションが非常に長いポートフォリオを運用することが可能でした。
しかしここ数年は、人口動態の変化、気候投資の普及、安全保障予算の拡大などの構造的変化を背景に、債券市場を取り巻く環境に変化が見られるとイーガンは指摘しています。
「足元では、元本リスク*の問題に直面するため、デュレーションを非常に長い水準に保つのは困難であり、サイクルの進行に合わせたアクティブな調整が求められます」。
その一方で、「このような構造的変化は、時間の経過とともにインフレを押し上げ、景気サイクルを歪める要因になるというのが私たちの見解です。その結果、サイクルが短縮する一方でボラティリティは高まると予想しています」とも付言しています。こうした変化はいずれも、ルーミス・セイレスのようなアクティブな債券投資家にとっては、サポート材料と言えるでしょう。
債券投資における技術革命
債券の運用会社が直面するもう1つの大きな変化として、投資ユニバースの拡大が挙げられます。今世紀の飛躍的な技術革新なくして、対応は困難であったと考えられます。前述のウォルドマンは、変化のスケールを浮き彫りにしています。「個別銘柄のデータと分析を備えた私たちのデータベースは、1999年時点の450倍もの規模に拡大しています。その結果、データを保存、管理、分析、調整する能力は、飛躍的に向上しています」。
市場が拡大するなかで、このような技術基盤は不可欠なものとなっています。「グローバルな社債インデックスの構成銘柄数は、2000年時点の約3,000銘柄から約20,000銘柄へと増加しています」とウォルドマンは指摘しています。
ユーロ・クレジット・チームの共同責任者であるピム・ファン・ムーリック・プルークマンは、複雑化した状況について次のように説明しています。「現在、私たちが参照するベンチマーク・インデックスは、約4,200銘柄から構成されています。したがって、相対価値の観点から評価を試みる場合、把握すべき債券の組み合わせは1,600万ペアを超えることになります。私たちは機械学習を活用したアプリケーションの構築が可能なデータインフラを基盤として、特定の債券ペアで興味深い動きが確認された際にシグナルを受信しています」。
イーガンも同じ見解です。「最大の影響は、速度と精度の両面に集約されると考えます。運用哲学に則した運用戦略用のツールを独自に構築することによって、高精度かつ迅速な行動が可能となり、優位性の確立につながります」。
アクティブ運用の重要性
この数十年で債券市場は大規模な変化を経験しましたが、変わらない点もいくつか存在します。
前述のファン・ムーリック・プルークマンは、「非対称性の強い資産クラスとしての債券の特性に、変わりはありません」と指摘しています。「債券の場合、元本に占めるインカムの割合が小さいのに対して、潜在的な損失額は大きくなり得ます。このため、アクティブ運用会社の立場では、破滅的な状況を避けることが付加価値の源泉となります」。この理屈は変わりようがありません。「ベンチマーク・インデックスでは債務残高の大きい銘柄が上位を占めますが、アロケーションや組み入れ比率を債務残高のみに依拠して決定することは、信用の質を分析する適切な方法とは言えません」。
ローリーも同じ見解です。「株式インデックスの議論を脇に置いて、債券のベンチマークについて考察してみると、ベンチマークに占める特定の銘柄の構成比率が上昇しているからといって、経営が順調であるとは限らず、借り入れの増勢を反映しているにすぎないことがあります」。
ここで本質的な問題が生じます。「現時点では利回りが高いものの、将来的な業績向上によって負債の返済が進み、利回りの低下が見込まれる企業こそが、望ましい投資対象となります。その一方で、継続保有に適した銘柄であっても、ベンチマークの構成比率が低下する可能性があります」。
100年にわたる市場進化の歴史
ルーミス・セイレスは一貫性と適応性に根ざしたアプローチのもと、創立100周年を迎えました。前述のウォルドマンは、「少なくとも私の観点では、一貫性と適応性という2つのアルファの源泉を支える一連の中核的な信念は、実証済みで持続可能なものです。これまで、さまざまな市場環境を経験してきました」と振り返っています。
その一方で、実践の方法は変化します。「私たちの中核的な信念や基盤は、長期にわたって一貫性を保ち、変化していませんが、具体的な実践方法は、その時々の市場の動きに応じて変わることがあります」。
市場が未知の領域に入るなかで、このように理念と実践のバランスを図ることが極めて重要になります。金融政策の分極化が進み、安全保障上の懸念が財政支出の優先順位を再編し、テクノロジーがアナリティクスに革命をもたらす環境において、債券投資には歴史的な視点と適応力の両方が求められます。
投資家にとってのメッセージは明確です。急速に変化する世界において、洗練されたテクノロジーと実証済みの投資規律を備え、複雑な環境を乗り越えられる投資家に成功は訪れます。足並みをそろえて動く世界は終焉を迎えたものの、洞察力を備えた投資家にとっては、かつてない規模のチャンスが到来しています。
* 当初の投資元本の一部または全部を失うリスク。