世界経済の見通しが不透明で、AI関連銘柄のバリュエーションへの懸念が投資家の間で高まる中、ナティクシス・インベストメント・マネジャーズが日本で開催したシンポジウムにおけるグローバル債券パネルディスカッションは、パネリストを務めた各グループ運用会社のCEOの明確な見解と展望を提供する絶好の機会となりました。CEOらは現在の環境には警戒すべき要素が多数存在すると認識しつつも、世界中でリスク調整後アルファを獲得する機会が豊富にあるとも確信しています。
世界マクロ経済の見通しは複雑
パネリストらは、AI関連銘柄の割高感や、トランプ大統領からの継続的な圧力をうけ、米連邦準備制度理事会(FRB)が独立性を維持できるかについて懸念を示しました。その一方で、米国経済自体については、特に過度な懸念は示しませんでした。むしろ、ルーミス・セイレスのCEO、ケビン・チャールストンは米国経済の見通しについて強気の見方です。「米国の景気サイクルは依然として非常に強く、企業利益は堅調を維持しています。その結果、労働市場は非常に安定しています」と述べ、その結果「雇用の安定的な状況」であるとし、トランプ大統領の関税政策が大きな変動をもたらしたものの、「大規模な財政関連法案は、全体としては刺激的」であるとの見解を示しました。
DNCAインベストメンツでCEOを務める、エリック・フランは控えめな見解を示しました。米国で「本格的な景気後退」は起こらないとしながらも、成長率低下とインフレ持続を伴うスタグフレーションのリスクが高いと指摘します。
大西洋を隔てた欧州に関しては、オストラム・アセット・マネジメントのCEO、オリビエ・ウイが、需要の弱さと家計貯蓄率の高さを理由に欧州経済の勢いに懸念を示しました。ウイは、欧州の主要成長エンジンであるドイツの対中輸出がほぼ3年間減少していることをその要因として挙げました。ドイツ政府が「バイデン大統領のインフレ抑制法に相当する」10年間で5000億ユーロを投資する計画を発表したものの、ウイは欧州の経済成長は弱いままであると予想しています。ウイはまた、予想を上回る賃金上昇による欧州のインフレを懸念し、インフレ率が2%を上回る状態が続く可能性を危惧しています。しかし最も深刻な懸念はフランスに向けられており、同国の高い公的債務と緊迫した政治情勢により、その経済は今やドイツよりもイタリアやスペインに近い状態にあると指摘します。
世界中に広がる多様な投資機会
一方、パネリスト達は、グローバル債券市場の投資機会については楽観的な見方を示しました。ケビン・チャールストンは近年の米国金利の変化を指摘します。「債券市場の最大のプラス材料は、米国10年物国債利回りが4%という現在の絶対水準そのものです。これはコロナ禍以前の水準と比べて劇的な上昇です」と述べ、 具体的な投資対象として、チャールストンは米国債インフレ連動債(TIPS)や証券化クレジットを挙げたほか、最近の懸念にもかかわらずデータセンター関連資産を推奨しました。「データセンター建設資金の多くを支える基盤事業を見ると、巨大なフリーキャッシュフロー創出源が存在します。通常、景気サイクル終盤では設備投資がキャッシュフローを上回りますが、現時点ではその兆候は見られません。ルーミス・セイレスでは、引き続きプラスの乖離を確認しており、これは依然としてかなり良い機会だと考えています。」
オリビエ・ウイは、2026年は欧州クレジット市場にとってプラスとなる可能性が高く、この資産クラスへのさらなる大幅な資金流入を予想しています。彼は次のように述べます:「スプレッドは比較的タイトですが、利回りの水準は依然として魅力的であり、ファンダメンタルズは堅調、デフォルト率は平均を下回り、レバレッジも抑制されています」
DNCAインベストメントのエリック・フランは、インフレが構造化しており、今後長期にわたり高水準で推移すると見ています。そのことから、実質金利(インフレ調整後の金利)や米国、ニュージーランド、スペイン、イタリアなどの先進国におけるブレーク・イーブン・インフレーションへのエクスポージャーを好意的に見ています。南アフリカ、メキシコ、ルーマニア、チリなどの新興国債券にも機会を見出していますが、為替リスク回避のため米ドル建ておよびユーロ建てを選択していると言います。またG10諸国の長期名目金利にも注目しており、英国・豪州・ニュージーランド・日本を推奨しており、「大半のイールドカーブが急勾配であり、長期金利が最近上昇したため」とその理由を説明します。なかでも日本は、G10諸国で最も急勾配なイールドカーブを有し、国債利回りが25年ぶりの高水準にあることから、多くの投資機会を提供するだろうとフランは確信してるとその考えを共有しました。
フランはまた、世界中に豊富な機会が存在する一方で、世界経済の不確実性についても強調しました。そして、今後数年間で魅力的なリスク調整後リターンを得る最良の機会を逃さないためには、選択的でありつつ柔軟性と分散投資を維持する必要性があることを説きました。