今年に入り利回りが上昇し、米国債の安全資産としての信頼が低下する中、世界の投資家は日本の超長期国債に殺到しています。しかし、投資に説得力のある理由がある一方で、警戒すべき点も存在し、国内外の投資家双方にとってアクティブ運用のアプローチが必要だと言えるでしょう。
長年にわたるマイナス金利政策により抑制されてきた日本国債(JGB)利回りの上昇は顕著です。2025年1月、日本銀行は短期政策金利を0.25%から0.5%に引き上げました。この利上げは、日本におけるインフレ圧力と賃金上昇加速への期待が背景にあります。
インフレ期待の高まりを受け、10年国債の利回りは2025年8月下旬までに約1.61%に達し、前年比で約100ベーシスポイント上昇しました。30年国債の利回りは、前年比112ベーシスポイント上昇し、3.2%前後で過去最高水準を更新しています。これはトレーダーが高いインフレ率を織り込んだ結果によるものです1。
日本へ流入する国際資本
今年の1月から7月の間で、世界的な景気減速懸念、米貿易政策の不透明感、地政学的緊張の高まりを背景に、世界の投資家は日本の超長期国債へ過去最高の9.3兆円(630億ドル)を投入しました²。また、海外投資家は今年勢いを増している日本経済にも魅力を感じています。超長期国債の利回りは上昇傾向にあり、インフレ加速と政府赤字拡大を背景に30年国債の利回りは、30年ぶりの高水準を記録しています。同時に日本銀行は、国債利回りの上限として数年間にわたり機能させてきた、イールドカーブ・コントロール政策を撤廃しました。
ルーミス・セイレスのグローバル債券チーム、グローバル・ストラテジスト、ハンク・リンチは、このことが資金を呼び込んでいると指摘します。
「日銀が依然として利上げモードにある一方、他の中央銀行の大半は緩和モードにあるため、日本国債への幅広いエクスポージャーを狙うのが賢明だと考えます」とリンチは述べます。
「30年国債の利回りが3%を上回り、3.25~3.5%に接近する中で、20年や30年の超長期国債を平準買いで積み増す戦略はより一層魅力的といえます。この水準は過去10年間の割高な水準に比べ、適正レベルに近いと言えます」と彼は付け加えました。
ルーミス・セイレスのグローバル債券チームで共同責任者を務めるデービッド・ローリーは、この傾向が継続すると予想します。その理由は二つあり、 「アジア地域全体が世界で最も成長の速いメガリージョンとなる可能性があり、総人口の減少にもかかわらず、日本の経済成長は減速ではなく加速するかもしれない」とローリーは述べます。さらに彼は、「米国の有権者層は深く分断されています。これは米国連邦政府の赤字削減に向けた真の取り組みが、今後も制限される可能性があることを示唆しています。他の税金の支払いを拒否したとしても、インフレによって最終的には税金を支払っているのと同じようなことになるでしょう」と続けます。
日本金利はピークにはまだ到達していない
ルーミス・セイレスとDNCAファイナンスの専門家によれば、経済成長が勢いを増す中、日本政策金利には上昇圧力が残っています。日本国債利回りのピークは、現水準から25ベーシスポイント以上高い位置に上がる可能性があります。これにより長期国債の投資魅力が増す可能性があり、アクティブ運用を行うことで債券・通貨取引での潜在的な利益拡大のみならず、リスク管理の効率化も図れるようになると考えられます。
DNCAファイナンスのグローバル・プロダクト・マネージャー、ダニエル・クラリンブールは、日本経済の成長加速を受けて、日本銀行が早ければ10月にも利上げを行う可能性があると指摘します。短期国債にはすでに、10ベーシスポイント以上の利上げが織り込まれていると考えています。
「しかし、マクロ経済のデータが示す以上に、日銀は国内政策の確実性と将来の国債発行計画を明確に把握してから、利上げに踏み切る必要があると考えているとみています。30年近くにおよぶゼロインフレ状態を経て、中央銀行は形成されつつある賃金・物価スパイラルを損なうリスクを冒すより、慎重な姿勢を優先するはずです」とクラリンブルは述べています。
ルーミス・セイレスのアジア地域グローバル・マクロ・ストラテジスト、ボ・ジュアンも、政策金利の再上昇を認めつつも、2026年を予想時期としてます。「次回の日銀利上げは2026年初頭と見込まれ、当面は緩和的な政策が継続するでしょう。超長期国債は需給不均衡の持続と選挙関連の不透明感の高まりによって、依然として変動が激しいものになると考えています」と指摘します。
超長期国債を支えるもう一つの要因は、海外投資家の強い買い需要に加え、日本政府が国債発行を抑制する動きにあります。巨額の債務負担と減税をめぐる政治的議論が続く中、財政持続性への懸念が高まっているものの、日本政府の純利払い額は「世界基準では控えめで、財政余力は依然として強固です」とジュアンは補足します。
現在の環境下で投資家が資産配分を行う際の最善策は?
デービッド・ローリーは、分散投資を実現しつつ現在の市場課題に対応するにはアクティブ運用が不可欠だと主張します。米国債を比較的多く保有する投資家にとって、米国資産から日本国債へ分散投資することは理にかなっている可能性があるといいます。「世界的に見ても、米国債への集中度は高いと私たちは考えています」と述べます。
同時に、日本の投資家や既に日本国債を保有する投資家も分散投資の恩恵を受ける可能性があります。日本国債の利回りが急上昇したにもかかわらず、米ドル建て米国債利回りは円ヘッジ後も依然として相応に高い水準にあります。また日米の金融政策の違いから、ヘッジコストは将来的に低下する可能性があります。
一方で注意も必要です。日本銀行が国債購入を縮小していることで、大きな需要の源が失われているからです。「このテーパリングが市場の需要を巡る課題を増幅させるでしょう」とリンチは指摘します。その上、海外の機関投資家は、多くの指標で円が過小評価されている現状においては、為替リスクを負う必要があります。
「戦術的には日本国債はまずまずのパフォーマンスを示すかもしれませんが、もし来年に世界的な景気後退が起きれば、日本銀行の追加金融引き締めが一時停止されることもあるでしょう。その場合、日本の経済構造における『中立』の金利水準への政策金利引き上げが完了したとの明確な証拠が示されるまでは、インフレ率を上回るリターンを生み出す中期的な見通しは高くないでしょう」とリンチは指摘します。
ナティクシス・インベストメント・マネジャーズの「2025 Wealth Industry Survey」(英文。海外サイトにリンクします)調査によると、資産運用会社の62%が、過去1年間で自社プラットフォームでのアクティブ運用がパッシブ運用をアウトパフォームしたと回答しています。マクロ環境の変動が続く中、金利動向が不透明な状況では、資産運用会社の73%が「現在の債券環境を乗り切るにはアクティブ運用が不可欠」と考える理由が容易に理解できます。