プライベート・アセットは、投資家にとって、分散投資とリターンの向上の可能性という ふたつの大きなメリットをもたらすことが多いと考えられています。しかし、過去3年間において多くのプライベート・アセットクラスが、この期待には完全には応えられていませんでした。世界的なマクロ経済情勢が大きく変化し、金利上昇、インフレ率の上昇、地政学的な不安定化など、さまざまな課題をもたらしました。その一方で、プライベート・アセット戦略は、このような状況下において初めて、個人投資家に開放されつつあります。こうした背景を踏まえ、ナティクシス・インベストメント・マネジャーズが日本で開催したシンポジウムでは、ナティクシス・インベストメント・マネージャーズ・グループの中でプライベート・アセットに強みを有するグループ運用会社のCEOがパネルディスカッションを開催し、投資家がどこに目を向けるべきかを議論しました。
プライベート・アセットへの投資に変化が生じている
AEW(北米)のCEOであるジョナサン・マーティンによれば、不動産投資は近年、はるかに困難になっています。「過去10年間を振り返ってみると、金利は低位に推移していた時期が長く、不動産ポートフォリオの構築は、実際にはセクター配分がすべてでした。適切なセクター配分、特に物流施設と住宅に投資すれば、非常に高いリターンを得ることができました。それは非常にシンプルな公式でした」と発言しました。しかし、この新しい経済環境では、単純なセクター配分ではもはや不十分だと彼は言います。不動産投資家は、適切なセクターだけでなく、適切な資産も選択する必要があるとマーティンは述べ、中期的にリターンの大部分は収益から得られるため、投資家は収益に焦点を当てるべきだと提案しました。
サステナブル投資の専門家である ミローバ のCEO、フィリップ・ザワティ氏も、ここ数年間は一時期のような追い風が弱まったと言っています。最近ではドナルド・トランプ米大統領の主導によって、サステナブル投資に対する反発が広く報じられています。一方で、その状況にあっても投資家の期待は基本的にそれほど変わっていないというのが、ザワティの見方です。投資家は依然として、良好なリターンが期待できる優良資産への投資を望んでおり、持続可能性は経済を見る一つの視点にすぎないのです。地域によって若干の違いはあるものの、年金基金や大手保険会社など、多くの機関投資家は依然として気候変動に関する目標を堅持しているとザワティは言いました。
フレックスストーン の CEO、エリック・デラムもまた、プライベート・エクイティも決して楽な状況ではないと言います。「プライベート・エクイティ(PE)は、過去20年から 25 年の間、流動性株式を 3~5% 上回るパフォーマンスを達成してきましたが、過去 4、5 年はそうではありませんでした。」
リターンの鍵は資産の選定と運用会社の知見
近年プライベート・アセットに流入する資本の増加と個人投資家の参入拡大は、セクターの市場構造を変え、新たな投資手法や投資対象となるアセットを生み出しています。
フレックスストーンが専門とする中小型のプライベート・エクイティ(PE)企業は、大型PE企業が直面する多くの課題を回避してきたとデラムは言います。その理由として、中小企業は金利水準を含めたマクロ経済要因への依存度が低く、またPEの運用会社は中小企業の経営パフォーマンス改善のために活用できる手段をより豊富に有している点を挙げています。PE企業が投資ポジションの出口戦略(投資家への資本還元)で直面しているとよく言われる困難は、フレックスストーンには該当しません。「中小型市場では、当社の出口戦略のIPOへの依存は5%未満です。出口戦略の約40%は企業買収によるもので、約60%は大規模ファンドからの投資によるものです。大規模なファンドは通常、多額の未運用資金(ドライパウダー)を保有し、継続的に投資を行っています。」 こうした特徴は、ここ数年間、中小型の PE に有利に働いてきましたが、デラムは、この市場分野には文字通り数十万もの投資対象企業があり、豊富な投資機会がある一方で、危険も伴うことを強調しました。小規模企業は、大企業よりも変動が激しい傾向があるため、資産(投資先企業)と運用会社(GP)の選択が極めて重要になります。
マーティンは、2022年の金利上昇を受けて不動産価値が下落したことに触れました。しかし、彼は、状況は最近変化しており、利回りはAEWが10~15年ぶりに見る水準に戻り、将来のリターンは非常に魅力的になっていると述べました。つまり、マーティンによれば、不動産は「おそらく、ここ何年もなかったほど良い状況にある」ということです。AEW はまた、オフィス、工業用不動産、小売、住宅から、冷蔵倉庫、セルフストレージ、学生および高齢者向け住宅、データセンターなどのセクターへと、その焦点を移しつつあります。
ザワティは、持続可能性の観点から最も恩恵を受ける資産クラスを ひとつ選ぶとしたら、それはインフラだと述べています。「ミローバは 15 年以上にわたり、特にエネルギー転換インフラに投資してきました。これは、回復力や持続可能性への長期的な影響を真に考慮する必要がある長期投資です。エネルギー転換インフラも近年大きく変化しています。以前は再生可能エネルギーのみを対象としていましたが、現在では「エネルギー使用、水素や持続可能な航空燃料などの新燃料、エネルギー効率、モビリティ、バッテリー」まで網羅しています。こうした投資対象の多様性と長期的な性質により、慎重な資産選定を行えば12~15年にわたり安定したリターンを得られるとザワティは説明しました。
近年、一部の投資家を失望させてきたプライベート・アセットですが、パネルディスカッションに参加したCEOの面々は、その将来性について楽観視していることを認識しあいました。プライベート・アセットの急速な進化、新規投資家の流入見込み、投資選択肢の拡大が相まって、資産と運用会社の選定に注意を払う限りにおいては、プライベート・アセットがより高い潜在リターンと分散効果という約束を果たす可能性はますます高いものになるとみているのです。