米国政権の変化はマクロ的な見方にどのような影響を与えていますか?
グローバル化や世界経済にとって大きな変化があると思われ、今後、過去見られたようなペースでの消費財のフロー拡大はなくなるでしょう。また一方で、明確で安定した経済政策をベースとする意思決定者の信頼感は、米国政権の経済政策が行ったり来たりして予測困難であるため、すぐには回復しないでしょう。
米国の景気後退の可能性は高まったのでしょうか?
はい、可能性は高まったと思います。成長の柱をひとつずつみていくと、まず政府効率化省(DOGE)の措置により米国政府支出は既に縮小傾向にあり、財政は成長を支援する要因とはならないでしょう。次に、民間設備投資面では、金融環境の悪化と不確実性の高まりから景気後退の可能性が高まっています。そして私たちにとって最大の懸念は、3つ目の成長の柱である消費者動向であり、「米国消費者が高水準の消費を継続できるか」どうかです。その答えの大部分は、今後数ヶ月で発表されるインフレ率に依存すると考えています。インフレ率が4%未満(賃金上昇率の予想水準とほぼ一致)で推移すれば、景気減速は限定的であり、米国経済は景気後退を回避できるでしょう。一方、物価がこれよりも上昇すれば、実質所得はマイナスに転じ、貯蓄率や市場動向による資産効果も、所得減少を補うことはできないでしょう。したがって、インフレ率が4%を超える場合、消費が低迷し、マイナス成長となる可能性が極めて高いと考えられます。
米国の貿易収支の急激な悪化がこれを示しているように、多くの企業が過去数か月にわたって在庫を積み増していたことから、実際のインフレ率への影響は夏場に顕在化すると予想されます。また非常に短期的にみれば、価格上昇前に消費が急増する逆の効果が現れる可能性もありえます。なお家計と企業の民間債務水準が低いことから、景気後退となった場合でも、その程度は軽微なものになり、2008年のような状況にはならないと考えています。
貿易戦争は欧州経済にどのような影響を与えると考えますか?
この貿易戦争は、輸出の減少と投資の先送りを通じて、欧州経済の成長鈍化をもたらすと予想されます。欧州の家計に消費を増加させる余地があれば、これは成長鈍化の緩衝材として機能するでしょう。またドイツの財政刺激策も欧州の成長を支えるでしょうが、2026年までに大きな影響は期待できません。他の欧州諸国も支出を大幅に増加させる余地はありません。
インフレ面では、欧州委員会の関税報復措置が限定的と見込まれるため、貿易戦争の影響は欧州でははるかに弱いものと予想され、商品価格の低下とユーロ高により、インフレ率が低下する可能性もあります。こうしたことから、ECBは利下げを継続し、金融政策を若干緩和的な方向へ転換する余地が生まれると思われます。
国債は景気後退のヘッジ手段として有効でしょうか?
私は依然として有効なヘッジだと考えています。米ドルと米国国債の地位に対する懸念が広まっていますが、米ドルの地位は疑問視されるところがあるものの、米国政府債券市場に関してはそうではないと考えています。米連邦準備制度理事会(FRB)は、米国国債市場を管理するためのあらゆるツールを保有しています。2022年におけるイングランド銀行の対応と同様に、FRBが米国金利の無秩序な上昇を許すとは考えていません。ただし、米ドル安により双子の赤字の調整が見られる可能性はあると思われます。
市場の動向はあなたのデュレーションに関する見方を変えましたか?
私たちはマクロ経済の分析を元にした投資を行っており、マクロ経済は政治情勢ほど急速に変化しません。ただし、米国では低成長と高インフレが続くと考えており、欧州では欧州中央銀行(ECB)がユーロ圏のインフレ率低下に対応して金利を引き下げるものと予想していることから、ポートフォリオのデュレーションを若干長期化しました。